本家より抜粋その12


注意事項は昨日の日記に書いてある通りです。桜ホスアニメの13話見てない人は絶対見ないこと!
まあ原作・アニメとはかけ離れてるので、オリジナルとして読んでもらっても構わないかも、あはは。
しかも、昨日の続きではありません。ぶっちゃけ最終話近辺です。
だって思いついちゃったんだもの、しょうがない。
今まで、途中飛ばして最後から思いつくなんてなかったのになあ・・・




別にいいだろう、想うだけなら。




「鏡夜先輩」

いつものように今日の収入の見通しをつけていたところに話しかけてきたのは、ハルヒだった。


「何か用か?」
「いや、用という程の話でもないんですけど」
「なら働いてくれるか。俺としてはその方が助かる」
「うっ・・・で、でもその前に一つだけいいですか?」



  何か、無理してません?



ファイルを持つ左手が僅かに震えた。
きつく閉じた瞼と思わずこぼれた小さな溜息に感付かれないよう、右手で静かに眼鏡を押し上げた。


「・・・無理、と言うと?」
「それが何なのかは皆目見当がつきませんが・・・最近、先輩少し辛そうだなあって」


前方のハルヒを見下ろすと、真っ直ぐにこちらを見る目と、痛い程にぶつかった。





ついに、顔にまで出るようになったか。
諦観したような気持ちの中、出来る限りの無表情で言葉を紡ぐ。

「お前等の面倒を見るのも、中々骨の折れる仕事なんだよ」
「『お前等』・・・って、まさか自分も入ってるんでしょうか」
「まあ、ないこともない・・・かな」
「そ、そうですか・・・」

半ば呆れたように、ハルヒが視線を逸らして小さく溜息をついた。
俺はそのことに安堵した。




軽く受け流してしまえばハルヒはこれ以上しつこく聞くことはない、と知っていた。
一時しのぎの答えでハルヒが納得することはないということも、知っていた。

それでも、面と向かって口を利ける程の勇気は無かった。



俺は、逃げている。





まだ営業前の部内は騒がしい。
一人黙々と準備を進めるモリ先輩をよそに暴れ回る双子、それを本気で追いかける環。
ハニー先輩は早くもお茶会を開始し、おいしそうにケーキを食べていた。

こんないつもの喧騒は、確実に俺とハルヒの間の沈黙をかき消していた。






実際はそれほど長くはなかったであろうその間が、ただ一人だけを苦しませていた。
衝動の強さに押し潰されそうになり、耐え切れずに瞼を閉じる。
俺は―――――


「俺は」






キイッ

はっと顔を上げると、本日最初のお客様が扉を開け、やがて絶えず動かしていた目がハルヒに留まると、その顔を赤らめた。




助かった、と思った。




「さあ、無駄話は止めにしよう。今日もしっかり働いてくれよ」

それを聞いたハルヒは、これ見よがしに、今度は盛大に溜息をついた。










何が悪い。
想っているだけなら別にいいだろう。
見守っていさえすればいいのなら
その翌日の不安くらい、許してくれないか。






「なあ、帽子屋」




閉じた瞼の裏で、帽子屋が静かに微笑んだ。