読んだ。

日の名残り」読了。最後、うるっときた。
以下、感想にもならんぼやき。




「私にはダーリントン卿がすべてでございました」
ダーリントン卿は悪い方ではありませんでした。さよう、悪い方ではありませんでした」
最期まで全幅の信頼を向けていた雇主を想い*1、桟橋で泣く執事。
昔の仲間だった女中頭に会って、自分の能力の衰えにもようやく目を向けられた。
「人生、楽しまなくっちゃ。夕方が一日でいちばんいい時間なんだ。脚を伸ばして、のんびりするのさ。夕方がいちばんいい。わしはそう思う。みんなにも尋ねてごらんよ。夕方が一日でいちばんいい時間だって言うよ」
この本の中で執事が泣いたのはたったの二度。どちらも静かな涙だった。この人は心底「執事」なんだと知る。
執事が見た夕方の海辺の町の桟橋からの光景は、どんなものだったんだろう。


すごくいい話だった。終始静かな雰囲気が流れていて、穏やかで、透き通っていて。
まず言葉が美しい。なんといえばいいのか、こう、すべての言葉がさらさらしてて、触り心地が良さそうな。原作読めるくらいの英語力があったらいいのになあ・・・原作はきっとこれ以上にさらさらしてるんだ、絶対そうだ。
最後の締めくくりも最高なんだよ・・・新しい雇主のファラディ様の為にジョークを練習せねば、と奮起する執事。少し笑ってしまったじゃないかよ。・・・ま、それでもやっぱり、泣き笑いなんだけど。
執事は雇主に仕える仕事。雇主が絶対、という言葉も下品に聞こえるほど、執事のすべてが雇主になる。
偉大な執事であればあるほど、雇主に尽くすんだろう。そして、その分自分はなくなっていくんだろう。
それでも前を向かなきゃ、と見知らぬ男に言われた。スティーブンスはそれを聞いて、前を向くことにしたんだ。
『いつまで思い悩んでいても意味のないことです。私どものような人間は、何か真に価値あるもののために微力を尽くそうと願い、それを試みるだけで十分であるような気がいたします。』
そうやって前を向いたスティーブンスを、私は今の彼よりもっと好きになれそうな気がした。


ま、彼のジョークはあまりに周りくどいんで、ファラディ様が帰ってくる1週間後までに最高のジョークができるとは思えないんだがな!不器用でうまくジョークが言えないスティーブンスかわいいよスティーブンス(結局これか)

*1:そうだよ、自分のことで泣いてるはずなのに、この人にとって「自分」はダーリントン卿なしでは語れないんだ。ダーリントン卿がいなかったらこの人はいなくなるんだ。そして、そんな自分に泣いてるんだ。