本家より抜粋その9


夢占い、というものがあるらしい。

占いなどというような不正確で信憑性のないものに縋る気はない。
ないが、こうも続けてみてしまえば、いくら俺でも気にはなる。






夢とは、通常は目覚めた時に意識されるものだ。
つまり、起きて初めて「今の出来事は夢だった」と気付く。

しかしあの世界は違った。
夢の中でも「今自分は夢を見ている」という意識があった。
設定が何処となく童話「不思議の国のアリス」に似ている事にも気付いていたし、
それでいて、桜蘭の学院生活をモチーフにしたような場所であることも分かっていた。



意識のある夢の中では本人がその世界を思い通りに動かすことが出来る、という話を聞いたことがある。

少し考え、無駄な事だと気付いた。
あの、ただ日々をこなすだけの淡々とした世界で、何かを願ったことはなかった。
不愉快を感じることがない為、変わる要素もない。



では、同じ設定の夢を、あたかも昨日の続きであるかのように見てしまう意味は何処に?



確かに始めは奇妙な夢だと感じた。
でもそれだけだ。特別意識した訳でも、もう一度同じ夢を見たいと思った訳でもない。

何度も見るということは、何か無意識の内に意識されている部分があるというのか。
自分自身では気付いてなくても、心裏に働きかけるとても重要な何かがあるのではないだろうか。







そして何より、




「先輩」


「・・・どうした?」
「この食器はどっちに持っていけば?」
「そうだな・・・今丁度ハニー先輩がいらっしゃる所の棚に置いてもらおうか」
「はーい」



とことこと歩いていく背中を見ながら、ただ純粋に思った。


 あの世界で唯一、ハルヒの存在だけがすっかり抜け落ちているのは何故だろう。






「ああ、それからハルヒ
「はい?」
「落とすなよ」
「わ、わかってますよ!」



俺は慌てながら振り返って返事をした顔を見つめ、やがて自問に対する興味をなくした。


左腕の時計に目を遣ると、そろそろホスト部の営業時間だった。